債権回収の際に利用できる手段の一つとして、動産売買先取特権という権利があることをご存知でしょうか?
動産売買先取特権は、いわゆる先取特権の一種です。
先取特権についての詳細な説明は割愛しますが、先取特権には、債務者の総財産に権利を有する一般先取特権(共益費・雇用関係(給料など)・葬式費用・日用品の供給)、債務者の特定の動産にのみ権利を有する動産先取特権(不動産の賃貸借う、動産の売買など)、債務者の特定の不動産に対して権利を有する不動産先取特権の大きく3種類が存在します。
通常の債権回収であれば、相手方に対して訴訟や支払督促を提起し、判決を得ないことには、差押などの執行を行い、回収行為を行うことはできませんが、先取特権を有する場合、先取特権を根拠に、訴訟等を飛ばしていきなり差押などの執行のステージに移ることが可能という大きなメリットがあります。
また、仮に通常の債権であれば、債務者が破産した場合、他の一般債権者と残余財産の分配を受けるに過ぎないことになりますが、先取特権を有する場合、その債権は優先的破産債権又は別除権として取り扱われることになり、破産手続きでも優先的な回収ができるというメリットがあります。
イメージとしては、不動産における抵当権を実行する場合に近いと思います。
動産売買先取特権は、このうち動産先取特権のうち、動産の売買に起因する権利を指します。
具体的には、買主に対して売った動産又はそれが転売されている時はその転売代金債権を差押えることができます。
ただ、この動産売買先取特権に基づく差押えを申し立てる場合、実務的には、当該動産(又はその転売代金)の特定がハードルとなってきます。
簡単に述べますと、私が相手方に「この」動産を売ったと特定し、それが執行官に分かることが物の差押には必要ですし、それが転売されていた場合は、この動産が転売された際の債権がこれだ、と特定したうえで当該転売債権を差し押さえるという必要があります。
そして、その際には、例えば、洋服などであれば、色、サイズ、枚数についてそれぞれ特定する必要がありますし、それが納品された証拠も必要です。そして、それらを書類(メール)で残っている証拠で疎明する必要があり、もし証拠間で枚数の違いなどがあれば、差し押さえを裁判所は認めてくれません。
このように、動産売買先取特権には、行使する際のハードルが高いというデメリットがあるのですが、認められた場合、その効力は債権回収との関係では大きいと言えます。
そのため、売る側としては、きっちり、納品物の特定をし、契約書又は注文書などの書面の形で目的物の特定、数量、価格などを証拠として残すことを意識して、常日頃より取引を行っておくことが重要だと言えます。
当事務所は、債権回収顧問契約などの顧問契約もお受けしておりますので、債権回収でお困りの方は、ぜひ一度ご相談ください。